ニコニ・コモンズとクリエイティブコモンズ・ライセンスの誤解について瑣末な点ながら指摘する

id:akasataさんが「ニコニコ大会議で発表されたニコニ・コモンズを考えてみる」というエントリにてニコニ・コモンズCCライセンスについて比較検討している。 しかし、私から見ると少し誤解を含んでいるように思える。 当該エントリの主旨とはあまり関係がないのかもしれないが、一応指摘しておきたい。 以下、引用部分は上記エントリからである。

CCライセンスでも公序良俗に反する利用は一部対応可能

クリエイティブ・コモンズで対応しにくい事例として最初に提示されていたのが公序良俗に反する利用への対応であった。 氏の記事によると、ニコニ・コモンズにおいては

- この素材はニコニコ動画以外でも使って構いませんが、公序良俗に反するコンテンツで利用するのはやめて下さい(ニコニ・コモンズもニコニコ動画も公序良俗の規定がありますが。 )

という対応をとるようである。

では、CCライセンス公序良俗に反するような利用を禁止できないのだろうか。

あまり知られていないのかもしれないが、日本版のCCライセンスでは、ver.2から著作者人格権について名誉声望を害するような改変の場合には同一性保持権(著20条1項)が行使できることになっている。 なお、CC全体ではv3.0によって著作者人格権との整合性が図られた*1

したがって公序良俗違反を全てカバーできるというわけではないだろうが、著作者の名誉声望を害するような改変の場合であれば、CCライセンスでも対応可能である*2


期限付ライセンスの技術的困難さと、期限付利用を認めることで失われること

クリエイティブ・コモンズで対応しにくい事例の2つめとして挙げられているのが、期間限定で利用可能性であった。

埋め込み型の期限付きライセンスCCライセンス策定時にレッシグも悩んだ問題である。 結局CCライセンスは期限付きライセンスというものを持たなかった。 実装されなかったのは、技術的ハードルが高かったからだと風の噂で聞いたことがあるが、現在検討されているかはわからない。

pdl2hさんによると、期限付きライセンスの難しさは、あるデータがライセンス変更前のものか後のものか判別しにくいことにあるという。 それ以外にもライセンス不特定多数に対する契約として考えた場合に、ライセンシーとの間でライセンス変更の合意が得にくいという問題もあるという指摘もされている。

後でも述べるが、ニコニ・コモンズライセンスではなく利用ルールないしガイドラインである。 ガイドラインであり、そしてサービスの枠組みの中で利用者が管理され追跡可能であるような設計をしているからこそ、上記問題点をクリアできるのだろう。 逆に言えば、そこがニコニ・コモンズの限界を画することになる。


CCライセンス付きコンテンツはGoogleやYahoo!、flickrでも検索できる

良いコンテンツは既にネット上にある、ただそれを見つける方法がわからないだけでも書いたのですが、ネット上には億単位でライセンスフリーな素材が存在していると言われています。 ただ、それを効率よく見つける方法は今のところなく、「再利用されることを前提にした素材の集積」はそれだけで価値があります。

これは結構ありがたいと思います。

主張の部分はまったくもってその通りなのだが、再利用されることを前提にした作品を「効率よく見つける方法」については、既にいろいろなアプローチが存在している。

検索大手では、最初に米Yahoo!が、次いでGoogleCCライセンスを採用しているコンテンツのみを検索できるインターフェイスを整えた。 私の場合は、Firefoxの検索バー内にCCタブがあるので、それをときどき利用している。 もっと頻繁に利用しているのは、flickrCCである。 大変上質な写真を素材としても入手できて便利である*3


以上はとても瑣末な指摘であり、おそらくはCCの広報不足が主たる原因なのではないかと思う。 しかし、以下については全体の主旨に関わる問題であると考える。


ニコニ・コモンズライセンスではなくガイドラインである

ニコニ・コモンズライセンスではなく利用ルールないしガイドラインであると述べた。 この点については、サブマリン特許のような弊害を生むのではないかとの懸念が既に表明されている。

サブマリン特許の弊害とは、かつての米国などでは特許出願段階では非公開だったため、補正等の手続きを繰り返して成立が遅くなった(時としてあえて遅らせた)場合、当該発明が一般に広く普及してから突如として特許発明であることが明らかになるところが、あたかも潜水艦が浮上するようであったこと(そして多くの場合、多額の使用料を請求したこと)から名付けられた*4

このように広く普及した技術的思想や作品(素材)を「人気が出てきた時点で有料化するといったこと」は法的安定性を害するので、本来好ましくないように思われる。 CCライセンスのようなライセンス契約形態下では、当事者双方の合意がなければ基本的に利用許諾条件を変更することはできないから、法的安定性には優れている。 見方によっては「柔軟」でないということになるだろう。 ここは二律背反的である。

しかし、ニコニ・コモンズではこれが可能であると言う。 おそらくこれは、ニコニ・コモンズライセンス契約ではなくガイドラインであり、著作者の一方的な宣言によって事後的に変更することが許されているからであろう。 それは「柔軟」かもしれないが、利用者にとってみれば当初の利用条件が変更されるというリスクが大きく、法的安定性に欠く。


ライセンスガイドラインは一概に比較できない

CC著作権を管理する団体ではない。 CCライセンスも DRD(デジタル・ライツ・ディスクリプション:digital rights description:デジタル著作権解説)に過ぎない*5。 一方、ニコニ・コモンズは特定枠組みの中で著作物の利用を管理でき、追跡を実現するサービスである。

CCライセンス設計思想は「コンテンツの自由な流通」であると思う。 だから利用許諾を期限付きにすることは難しいし、ライセンス契約であるため、後から許諾条件を変更することは難しい。 そしてCC自体は管理には関わらない。

ニコニ・コモンズは「コンテンツ流通の可視化とコントロール」に主眼があると思われる*6。 だから期限付きの利用や事後的な条件変更を許容する設計になっているし、管理にも携わる。

私が懸念するのは、ライセンスガイドラインの差を認識した上での議論があまり行われていないのではないかということである。 同じ「コモンズ」を冠し、コンテンツ流通を促進しあるいは規律するものであるとは言え、両者の性質は異なるため、カバーできる範囲も自ずと違ってくる。 その点を考慮した上で、ニコニ・コモンズCCライセンスについて語るべきだと思う。

*1:ただし注意が必要なのは日本における著作者人格権は、著作者の意に反する改変一切が保護範囲としているが、世界的には、著作者の名誉声望を害する態様での改変に限って、同一性保持権の行使を認めているケースが多いという点である。 詳細は【CCPLv3.0】著作者人格権(同一性保持権)に関する議論を参照のこと

*2:念のため述べておくと、職務上作成する著作物であれば法人であっても著作者となり、同一性保持権の主張が可能である

*3:「再利用されることを前提にした素材の集積」という意味では、CCライセンスからは離れるがmorgueFileなどが大手だろうか

*4:米国も法改正により新たなサブマリン特許は発生しなくなったものの、1995年以前に米国に出願された発明が「潜水」している可能性もある

*5:それでも既存のサービスと組み合わせることで、ある程度の利用をコントロールしたりクリエイタに還元することは可能ではある

*6:余談だが、ニコニコニュースなどによれば、作品ごとに割り振られた管理番号「コモンズID」を利用者が派生作品をアップロードする際に自己申告させる形で管理する仕組みのようだ。 ISRCコードなどと比べると情報管理自体は徹底していないと言える。 仮にコモンズIDが権利管理情報(著2条1項21号)に該当するとしたら、虚偽の情報を付加したり情報削除・変更をすると3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または併科となりうる。 この点について申告者は留意すべきだろう

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